宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

ホムス。ガンバ大阪シリアに舞う。




小学校5、6年のころだったように思う。
少し肌寒く、ジャンパーを着ていったのを覚えている。
幼友達2人と共に、神戸駅から2、3キロ離れた所にあった球技場へ行った。
いまのウ゛ィッセル神戸のホームスタジアムの場所だったように思う。

そこで初めてサッカーの試合を観た。
幼稚園のころより[キャプテン翼]に夢中で、放課後にはクラスメートらとサッカーに興じた。
憧れのプロの試合。厳密にいえばJリーグの発足前だったからアマチュアだったのだけれど。
その試合はどちらが勝ったとか負けたとかは覚えていない。
しかしひいきのチームが後のガンバ大阪となる松下電器だったことは覚えている。

そしてシリアのスタジアムにいる。
アジアのクラブチームチャンピオンを決めるという大々的なトーナメントに、ガンバ大阪は勝ち上がっていた。
そして、アルカマラというシリアのクラブチームと対戦するために、シリアのホムスにやって来ていた。
この旅行にささやかな目的があるとすれば、[サッカーを観ること]であった。
今のところバンコクで観戦した[タイ対オマーン]のみである。
2試合目が応援ソングのCDまで買ったガンバ大阪になろうとは。

試合がシリアであることを知ってから、色んな旅人に声をかけまくった。
すると日本人6人、ドイツ人2人、韓国人2人、台湾人1人という大所帯となってしまった。
キックオフは夜の10時。

町の盛り上がりはどんなもんかと思っていたが、行きのバスのラジオから[ガンバオオサカー、、、]、ホムスに着けばどいつもこいつも[ガンバオオサッカーー!!]、新聞もガンバ大阪
日本人でかたまっていると、アルカマラのユニフォームを着てフラッグや太鼓を持った応援団が集まってきて、歌え踊れの大騒ぎ。
アジアナンバーワンを決める戦いだけあって、盛り上がりもなかなかのモノだった。

こんなシリアの片田舎の人たちが[ガンバ大阪]を連呼している。
Jリーグは当初、企業名をチーム名に冠していた。
[松下電器]から[パナソニックガンバ大阪]になり、そして[ガンバ大阪]へと変わっていった。
以前の名前のままだったら、きっとみんな[パナソニックー!!]と叫んでいただろうし、言われるこちらもさほどに愛着は感じなかったかもしれない。
みなが[ガンバオオサカ]
といっているその響きは少し誇りに思える。

チケットに関する情報がないため、ガンバ大阪の選手の宿泊しているところでもあり、サポーターの集合場所にもなっていた五つ星ホテルに向かった。
チケットを事前予約している人はここで受け取ることにもなっていた。
そこへ国籍もバラバラな大人数でおしかけて、スタッフの人にチケットがどこで手に入るのかを尋ねると、驚くべき答えが返ってきた。

[本日の試合のチケットなんですが、ガンバ大阪持ちになりましたので、タダです!思う存分応援して下さい!]
[えっ!?マジですか?俺ら国籍もバラバラですけど、、、。]
[大丈夫です!そのかわり応援ヨロシクお願いします!]

ガンバ最高。素敵な計らい。
しかもスタジアムが少々危険ということで大型バスで送迎付き。
席はアウェー席でしっかりと囲いがあり、おびただしい警察が見張っている。
日本から駆け付けたサポーター約20人と在シリア邦人合わせて200人が声援を送った。

FIFAの公式ソングが流れ、選手入場が始まると、シリア人たちは一斉に地鳴りのような声援を送った。
会場は8割近く埋まっていて、15000人ほどの観客だっただろうか。爆竹や発炎筒もたかれている。
これがアウェーというやつか!

この雰囲気は前半10分に最高潮に達する。
ホームのアルカラマがコーナーキックから先制したのだ。
揺れるスタジアム。観客席は波うっている。選手たちは折重なって喜びを表している。
ガンバ大阪はここ10戦勝ち星から遠ざかっている。けが人も多く調子が悪い。
しかしアルカラマも主力4人がいない状態。
ガンバは前線のブラジル人二人が孤立。
そしてリズムを作れないまま前半を終えた。

後半ガンバはまだリズムを作れずピンチを何とかしのぐ。
後半20分にネックになっていた左サイドバックとブラジル人を交代。DFをひとり減らし、攻撃を厚くした。
そこから試合が劇的に変わる。

代わって入ったFWの二人は積極的に動き回り相手を撹乱。
DFは動きまわざるを得ない。そうしてできた空白に、次々とガンバの選手が飛び込んでゆく。
アルカラマはじりじりと後退し、それによって得たコーナーキックから同点に追いついた。
応援席はお祭騒ぎである。在シリア大使館の人たちなんかも日本の国旗を振り回したりして、さながらオリンピックのようである。

一点を入れたガンバの勢いは止まらない。
続く30分には代わって入ったFWがドリブルで抜け出し、ゴールキーパーと1対1になったところを冷静にゴールに流し込んだ。
スタジアムはしんとしていたのだろう。応援席の盛り上がりがすごくて全く分からない。

もうアルカラマに反撃する力は残っていなかった。
2ー1。ガンバ大阪敵地で勝利!あとはホームで勝つのみ。
日本人にとって最高に満足な夜となった。
試合後観客のシリア人たちも[おめでとう。]的なアラビア語をひきつり笑いで言ってくれ、握手した。
久びさに、ヤクザ映画でも見終わった時のような高揚した気持ちになった。のどもガラガラである。
ガンバ大阪さん、本当にありがとう。
そしてサポーターのみなさん、お疲れさんでした!