宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

デリゾール。ユーフラテス河をのぼる。




ユーフラテス河を車窓から眺めつつ、もの思いにふけりたい。

その願望のみで、ユーフラテス河沿いのデリゾールという街までやって来た。
河以外には特に見るべきものもない街だ。
中心部から15分ほど歩くと、ユーフラテスに架かるデリゾール橋が見えてくる。
世界最古の文明が営まれていた大河ユーフラテス。
川幅は100メートル以上はあったか。河の流れはとても速く、水は深い緑色をしている。
河川敷は雑草や木が旺盛に茂っており、砂漠に流れる大河、というイメージではなかった。
その流れの先には、今も混乱収まらないイラクがある。

東洋人が珍しいのか、この街の人々は握手を求めてきたり、カメラを撮られたり、携帯のムービーで撮影されたりした。
鉄道の駅へ向かって郊外を歩いているとトラックのおじさんが助手席に乗せてくれたり、帰り道には若いお兄ちゃんがバイクに乗せてってくれたりもした。
駅といってもらしき小さな建物以外何もなく、線路が一本走っているだけ。
線路は地平線に消えている。
その建物の門はしっかりと閉ざされており、人気も全くない。
宿の親父に聞くと、街の中心部にオフィスがあり、そこでチケットを買うのだという。
親父は親切に道を紙に書いてくれ、さらに用件もアラビア語で書いてくれた。
宿からもほど近いそのオフィスでは、やはり英語は通じなかったが、紙を見せると一発で切符を発行してくれた。

デリゾール、アレッポ間、一等席、170SP(350円)。

300キロ近い距離がこの値段なのだから、お買い得な切符だろう。

朝6時45分発の列車に乗り込むと、その気持ちは強くなった。
幅がありゆったりとした座席、それぞれの席にはイヤホンが付いており、中央にはテレビが据え付けられている。冷房はほどよく効いていて、ジュースのサービスもある。
そして車両から見る景色は、期待を裏切らなかった。
砂漠の中を突っ走り、線路の左どなりをユーフラテス河が流れる。その景色はイメージ通りの迫力だった。
ベドウィンの村の中を突っ走ったり、広大な湖にそびえる城跡も見えた。それは現代に至っても手を施していないような朽ちた城だった。
4時間の旅の景色はバリエーションに富んでいて、まったく飽きることはなかった。
心地よいまま古都、アレッポにたどり着いた。