宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

ポトシ。鉱山で働く人。




 ボリビアには、ポトシという現役の鉱山がある。

 アンデス山脈の東部、4000メートルの高地がその場所である。

 スペイン植民地時代に栄え、そこで採れた銀はスペイン本国の通貨となった。
 現在でも銀、銅、鉛、スズが採れる。
 世界遺産にも登録されているところだ。

 ラパスでうだうだやっているのもなんだから、お隣ベッドの青年サンちゃんと夜行バスに乗ってポトシへと向かった。
 現役の鉱山を見学できるなど、おそらくここだけじゃないだろうか。
 
 サンちゃんは風邪気味で、バスの中から咳が止まらない。
 自分もデスロードの疲れを引きずっていた。

 ラパスから行くジャングルツアーというのが、日本人の少々の流行になっていた。
 なにせブラジルやペルーから行けるジャングルツアーは300ドルや400ドルするらしいのだが、ラパスからだと2泊3日ツアーに70ドルくらいで行ける。
 野生のワニやら、カピパラやらが見放題で、ピラニア釣りまでできるという。
 ならこんなチャンスはあるまいと、みな集団でジャングルへむかうのである。

 自分はというと、こういう時になるとひねくれたもので、そんなもん、天王寺動物園で十分じゃ、とか言ってしまったために、引くに引けなくなり、ラパスでウダウダトやっていたのだ。
 それじゃあ何だしとのりだしたポトシ

 街はスペインの植民地時代を色濃く残した石畳の道。
 そして古めかしい住居や、街の規模に似つかわしくないような立派な教会。
 4000メートルの高地での晴れ空は透き通って美しい。
 鉱山ツアーに申し込むと、これがまた安い。
 半日で8ドルほど。えらい安さである。

 他にも欧米人を6人ほどワゴンに詰め、ツアーが始まる。
 まずは鉱山の労働者にお土産を買ってゆく。一人1ドルちょっと寄付したのだが、
 まあ働いているところにお邪魔するわけだから、多少のお土産は必要だろう。
 その代りチップを作業中に手渡すこともしない。
 実に合理的なやり方だと思ったのだが、あるスペイン人青年は難色を示し、結局ツアーの参加を取りやめた。

 お土産には、強烈な色をした2.5リットル入りの炭酸飲料や、コカの葉、そしてアルコールだ。
 このアルコール、96パーセントって書いてある。
 ああ、ジュースで割って飲むんかい。と思っていたら、ガイドのおっさんが言うには、

 「これはウイスキーだ。」
 
 ということを言っている。
 まさかダイレクトで飲まないよね、とさりげなく聞いてみると、
 
 「ダイレクト。」
 
 という答えがダイレクトに返ってきた。
 96度、、、。聞き間違えであってほしいものである。

 それらの土産を携え、神秘的なおにぎりのような形をした鉱山へ入る。
 外にはボリビア人たちがもくもくと暗闇のトンネルから吐き出されてくる土砂を積んでいる。
 すさまじい力作業。

 ガイドに連れられてトロリーの線路がひかれている穴の中へと侵入する。
 30メートルも入ると暗闇が支配してくる。
 頼りになるのはヘルメットに添えられたライトのみである。
 時折遠くからゴロゴロゴロという音が聞こえ、やがて2人の男に引っ張られるトロリーが過ぎてゆく。
 トンネル内は狭いので、みな体を斜面にへばりつけてトロリーを通す。
 トロリーには数トンの石が詰まっている。この中の一部に、鉱石があるのだろう。
 
 ガイドがひとしきり説明を終えて、労働者たちにコカの葉を渡し、巨大コーラを手渡した。
 彼らはハニカミ笑いを浮かべながら、「グラシアス。(ありがと)」とつぶやいていた。口はリスがそうするようにコカの葉を奥歯あたりでためている。
 そんな彼らの年収は数万円である。

 トンネルの中はアリの巣のようになっており、上と下の穴の間は簡素な梯子が掛けられている。
 高さは10メートルほどはある。
 高所恐怖症の人には少々酷だろう。
 
 深部まで潜ったところで、ダイナマイトで岩盤を破壊するという場所へ来た。
 足元には銀が散らばった鉱石が無造作に落ちていた。
 入り口から50メートルは下ってきていて、あたりもムシムシしている。
 そんな所でも、10人ほどがスコップで土砂をのけていた。
 コーラを渡すと、笑顔を見せてくれた。
 
 しかし未だかつてこんなにも劣悪な労働環境を見たことがない。
 マスクはしているものの、粉じんは容赦なく口や鼻にこびりついてくるのである。
 しかもあたりは真っ暗で、蒸し暑く、命の危険を伴っている。
 これを現代の日本人がやれと言われても、無理だろう。

 そこからハシゴを登った時、ドドーーーン! というダイナマイトの爆発音がトンネルに響いた。
 しばらくするとトンネル内は火薬のにおいで包まれ、ライトには煙が映る。
 
 外の空気がこんなにうまいと感じたことはない。
 閉所が苦手というのもあるのかもしれないが、ここはきつかった。
 時計を見てみると、たったの2時間半しか進んでいない。
 もう8時間はいた気がしたのに。
 
 いまだにこういう労働環境の下で働く人々がいる。
 彼らの生活改善は手をつけられていないようだが、彼らに支えてもらっている世界がある。
 そのことがわかっただけでも、収穫に思えた。