宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

ウユニ。ウユニ塩湖に行ってみる。




 国境を越えてすぐに、ビジャソンの街からウユニ行きの列車のチケットを取ることができた。
 あと1席で完売というところだった。

 すでに息があがっている。
 インドのレーに向かう際、5300メートルの山々を越えた。
 そのときも頭痛がひどかった。人によってはまったく高山病にかかることもないのだそうだが、自分は弱いほうだと明言できる。
 何でも食べることができるし、車酔いすることもまずないのだが、高山病だけは、、、。

 列車はファーストクラスで、しっかりとリクライニングの利くシートで横になっていたのだが、苦しさと頭痛はどうにもならない。
 車窓の風景なんぞ見えないほど一人でもだえ、列車で10時間、深夜の1時にウユニの街にたどり着いた。
 数人の欧米人たちとともに宿の客引きに来ていたインディヘナのおばさんについてゆき、着替えもせずに倒れこむようにベッドに横になった。

 ウユニは、あの有名なウユニ塩湖があるところだ。
 高度は3800メートルにも及ぶ。
 同室になった28歳のニュージーランド人は、
「俺なんてぜんぜんへっちゃらだぜ!」
 なんていってたくせに、翌日まったく起き上がろうとしない。
「うおーー。頭クラクラするぅー。目がシパシパするぅーー。」
 と、一日遅れの高山病に悩まされていた。
 
 一日は頭痛薬を飲んでゆっくりと過ごし、翌日にウユニ塩湖1泊2日ツアーへ参加した。
 驚くことに日本人だけ、30過ぎのカップルさん、いっこ上の男性、花の女子大生2人組という6人のツアーに参加することになった。
 ガイド兼ドライバーのジョニーは英語がまったく喋れない。
 俺たちもまったくスペイン語が喋れない。
 
 彼ががんばって説明する言葉の端切れをつかみ、推測するという状態が続く。
 まず、昔チリの方面に塩を運んでいたという、古い鉄道跡を見学。
 お土産屋が目立ちすぎる塩精製工場を見学した後、一面白の世界へ飛び込んでゆく。
 
 遠くに見える山がかすんでいる。
 蜃気楼のように地平線から少し浮いたところに山が見える。
 太陽の光は強く、一面白の世界は、サングラスなしでは目を開けていられない。
 
 宿はウユニ塩湖の中にあり、なんと塩でできている。
 ホンマかいなと思い、壁や机、ベッドを舐めてみるが、ほんとうに塩らしい。しょっぱい。
 昼過ぎにその宿に放置され、次の日昼に迎えに来るという。
 24時間放置プレイ。
 さらに4人の日本人がその宿に泊まるため、10人日本人という、塩湖で日本人宿状態だったため、孤独にさいなまれることはなかったが、なんともまあ、集まるもんだ。

 この宿には電気もなく、シャワーもないので、欧米人の利用は少なく、実は多くの旅行会社もあんまりお勧めしていない。
 それでも、塩のホテルで朝日と夕日を素敵に拝みたいというロマンティシズムいっぱいの日本人で部屋は埋まっているようだ。

 この宿はほかのツアーでも見学対象となっていて、くつろいでいるところにドヤドヤと観光客がおしよせる。
 そこで泊まっている俺たちはまるでモデルルームにでも住んでいるかのようである。
 部屋から出ると、欧米人のおばちゃんがカメラを構えていた。
 街の宿で同部屋だったニュージーランド人の兄ちゃんも訪れており、
「なに?こんな水もないところで24時間放置!?アンビリーバブルだ。」
 と、実に痛いところをつく一言を残し、去っていった。

 
 しかしながら!
 やっぱりここで見た夕日は素晴らしすぎた。
 真っ白の地平線に太陽が沈んでゆく。
 あたりの色は白からピンクに変わってゆく。
 そして塩の大地には、何メートルもある影が伸びてゆく。
 
 夜に見た星もまたきれい。
 なんせ3800メートル、富士山の山頂から星を見ているようなものなのである。
 プラネタリウムを体験し、朝の6時、朝日を拝む。

 なんやかんや言っても、朝日はいい。
 再び力強い太陽光を浴びると、このためだけに塩のホテルに泊まったかいがあったなと感じてしまうのである。
 
 昼過ぎに日本人のみんなとはお別れだ。
 みなペルーや中米から南下してきており、これからアタカマというグランドキャニオンみたいな景勝地を通って、チリへ抜ける、3泊4日のツアーに参加している。
 北上は俺だけだった。
 日帰りツアーの陽気なアルゼンチン人4人組の車に乗り、マテ茶を回し飲みしながら塩湖の真ん中に島のようにあるサボテンの山へ向かい、昼飯を食って街へ戻った。

 
 自分は知らなかったのだが、みな雨季であるこの時期、塩湖に水が張っていることを期待していたのだそうだ。
 なんでもこの真っ白な大地に水が張ると、まるで鏡のように水面に山や空が写り、もう言葉ではいえないほどの美しさを見せてくれるのだそうだ。
 今年は雨季が遅れており、水はまったく張っていなかったが、まあ個人的にはこの白い世界も十分に普通ではありえない。
 しかし次に訪れるとき、超巨大なミラーになった塩湖を見てみたいものである。


写真1  ウユニ塩湖。
写真2  塩のホテル。ここで24時間放置。
写真3  朝日を背に。