宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

プエルトイグアス。滝祭りで体が臭う。




 パラグアイへ行く予定が大幅に狂ってしまった。
 それもこれもサッカーのせいである。
 ブエノスアイレスのボカ地区を巡った際、あの黄色に彩られたスタジアムを見てしまった。
 冷めていたはずのサッカー熱に再び侵され、イグアスで滝を見た後にパラグアイを通り、ボリビアに入る予定を急遽変更した。
 イグアスまで1000キロ近い道を0泊3日で帰ってくることにした。
 片道52ドル。決して安くはない。
 が、やはりアルゼンチンのバス事情は整っている。
 なかなかおいしいチキンの夜食が配られた後、ワインとウイスキーが振舞われる。
 車窓から景色を眺めながらウイスキーなんぞ、いい気分に浸れる。
 
 17時に出発したバスは翌日12時、プエルトイグアスに到着。
 バス停に併設されているツーリストインフォメーションで、イグアスの滝までの往復バスチケット、そして滝のすぐ近くまでボートで近づいて滝を浴びてくるツアーを申し込んだ。

 以前にイグアスの滝を見たアメリカ人が、「ナイアガラより全然すげえ。」とコメントしていたその滝。最大落差は80メートル。世界三大滝(?)のひとつ。
 アルゼンチンとブラジル側にまたがっており、ブラジル側からは滝の全景を眺めることができるが、アルゼンチン側ではより滝の近くに行くことができる。
 悪魔ののど笛と呼ばれるポイントへは、公園内を走っているおもちゃのような鉄道に乗ってゆく。
 そこから歩いて川を越えてゆくと、林の向こう側から水しぶきが風に舞い上げられて空に虹を創っている。
 大量の水がたたきつけられている重低音が、徐々に近づいてくる。
 駅から10分ほど歩いたころ、ものごっつい光景を目にしてしまったあ!
 
 ズドドドという水のうなり声、舞う水しぶき。
 滝は桟橋のすぐそばから大量に落下してゆく。その底は水煙がかかっていて見ることができない。
 真っ白の水しぶきのなかにいくつか虹がかかり、そこを鳥が飛んでいた。
 すげえ迫力。
 それまで観てきた「ウォーターフォール」と呼ばれるそれらが、じょうろから垂れる水のように感じる。
 とにかく圧倒的だった。
 
 滝はその場所だけではなく、公園内にいくつも点在している。
 いくつかの滝を通り過ごし、崖の底までやってくると、滝へ近づいてゆくツアーボートがある。
 一人でそこに乗り込む。あたりは欧米人グループばかりである。
 いつも思うがこういうアトラクションをやるとき、一人ってのはやっぱり一種のむなしさが付きまとってしまう。
 相方でもいて
 「すごい水だねえ。粋なもんだねえ。」
 なんて感想でも述べ合えればいう事はないのだが、いかんせんグループたちの中に一人で混じり、救命具をつけて船の手すりにつかまって座っている様は、あきらかにクールじゃない。
 そんな俺をよそに、ボートは一気に滝へと近づいてゆく。
 かかる水。すさまじいしぶき。
 滝を見上げることができない。欧米人はキャーキャーはしゃいで楽しそうだ。
 こんなにも水がかかってくると思っていない俺はそれどころではない。換えの服なんにも持って来とらんぞ!
 一人ジーパンの俺は欧米人の失笑を買いつつ、くさい水のかかった服をどうすることもできないままブエノスアイレスへ帰るバスへ乗った。
 そして宿に戻り、Oさんから「体、くさいよ。」という切り裂くようなお言葉を頂戴したのだった。
 
 なんにせよ、滝は素晴らしい。でも換えの服を持ってゆこう。