ビーニャ。魚介類カーニバル。
イースター島からサンティアゴに帰ってきた。
そしてそのままバスに乗って、サンティアゴから2時間、海岸沿いの町、ビーニャへ向かったのである。
多くの日本人からここはええぞ、と呪文のように聞いていたので、自分もすっかり行く気になってしまっていた。相変わらず催眠商法的なものに弱い。
イースター出発前に、そのビーニャにある日本人宿、汐見荘に荷物を預けていた、Kさん夫婦について、汐見荘にお邪魔した。
素敵なほど日本語の漫画や小説が揃っている。
イースター出発待ちの名古屋出身の女の子は「土佐の一本釣り」というえらい渋いチョイスの漫画を読みふけり、「これ、ほんとーにくっだらないんですよねえ。」といいつつ追読の手を緩めることはなかった。
俺も司馬遼太郎の「翔ぶが如く」と出会ってしまった。出会ってはいけない二人だった。おかげでブエノスアイレスへ戻る予定は大幅に狂うこととなる。司馬マジックは効き目が早い。
それはともかく、ビーニャの街は海岸沿いの町であり、リゾート的な町であるという以外、見所は少ない。まあのんびりして良いところだ。
ただひとつ、最大の見所は、特に土曜日に大々的に開かれる魚市場であった。
宿にいる数人で朝8時過ぎから市場に向かった。
海岸にはものすごい風が吹いていて、塩水が霧状となって顔にまとわりついてくる。
頭上には恐竜のようにドでかいペリカンが悠々と飛んでいる。
海は激しい波で洗われて茶色い。
小さなボートが市場に向かってひっきりなしに上陸してゆく。
そこへ客たちが金を握り締めて一斉に群がってゆく。
船の中には様々な魚が跳ね回っていて、客たちはその場で金を漁師に渡して、魚を手に入れてゆく。
威勢のよい現場である。売る漁師も、買ってゆく客も、活気がある。
われわれ日本人組みも思い思いに魚介類を手に入れてゆく。
俺が買ったのは、まだ生きている中型のカニ3匹。これが2ドルほど。安い。
さらにパタゴニア南部から運ばれてきた、脂ノリノリのサーモンの切り身だった。
これがまた、、、。最高。
汐見荘には魚介類調理器具が一通り揃っている。
サーモンを塩焼きにして、でかい鍋にカニを放り込み、塩茹でにする。
カニがうますぎる!さっきまで生きていたヤツを釜茹でにするのはなかなかえげつないが、甘みがしっかりとあって、素晴らしい美味である。
カニ味噌もまた最高。
こんな安値でカニを味わいつくすことは日本ではできない。
カニ、カニメシ、ワイン、ノリノリサーモン、そして司馬遼太郎。
日本のストレス満点の働き者がこれを見たら、蹴りを食らわされているだろう。
旅行に出てからこの数ヶ月、ストレスレスの生活を続けている。
楽しいことを続けていると、当然ながらストレスなんて溜まりようもない。
日本の帰国が迫ってきている。
ストレス、溜まる事もあるんだろうなあ。
しかしながら今は、新たな日本での生活が楽しみである。
長期で旅行に出て、いろんなものをリチャージできたように思う。
カニを食らいながら、そんな都合のよい解釈を考えている。