宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

イースター島。マグロと、のんびりした日々。




 イースター島の時間はゆったりとしている様に感じる。
 日没が午後9時ごろと遅いのもあるのかもしれないけど、小さな村で営まれているお店なんてのんびりそのものであった。
 何せシエスタ(昼休み)がバカ長い。
 午前11時開店、午後2時閉店、気分しだいで夕方開店なんてのがざらだった。
 それはそれで大してイラッとこないのが不思議なもんである。
 日本じゃあ考えられないくらいのんびーーりしている。
 
 歩いていても気軽に車に乗っけてくれるし、住人が限られているせいか犯罪も少ないらしく、治安もよい。
 宿にいる人たちも、みなのんびりである。
 9時ごろに起き始め、2時間かけて市場まで行き、昼飯を食って、その辺散歩したり海を眺めたりして夕食。酒飲んで1日終了。夜になるとすさまじいばかりの星空が広がる。
 火の玉みたいな流れ星がボンボコ落ちる。そして寝る。
 ああのんびり。
 日本でしこたま働いてる人たちが見たらメリケンサックかなんかでボコボコにしたくなると思う。
 
 そして流されやすい俺ものんびりと過ごした。
 枝に糸と針をくくりつけただけの釣竿を持って、宿の向かいの波止場で糸を垂れる。
 エサは本土から持ってきたもはや腐りかけの食パンのみである。
 水で少しこねて針につける。パンを蒔くと小魚が大量に寄ってくる。底のほうには大きい魚もいる。
 そこへ針と糸を放り投げると掛かる掛かる。
 煮付けにすると美味いベラやガシラがバンバン釣れる。
 大きいものだとアジのような魚が掛かった。
 わずか1時間で7匹の釣果。最終的には大きなアジに竿をへし折られてしまった。
 イースターではスキューバもできるらしいのだが、俺は見るより釣る方がいい。食えるから。
 
 宿に持ち帰り、Oさんの奥さんに味付けを教えてもらった。
 魚の鱗と肝を取り、白ワインを鍋に張って、煮立ってきたら刻んだ生姜を入れ、醤油、砂糖、魚をぶち込んで煮込む。
 それだけでなんと美味いものができるのか!勉強なりました。

 日曜日には村の教会でミサがあった。
 村から人影が消え、みな教会に集まっていた。
 そこで歌われていたゴスペルの音色がなんとも不思議だった。
 キリスト教と土着の宗教や言語、リズムが混ざり合って、独特の音を出していた。

 滞在最終日、ついに念願のマグロが手に入った。
 イースターといえば新鮮なマグロだと、出会う旅行者から嫌ほど聞かされていたが、12月始めでシーズンはまだ早かったらしく、マグロが獲れても島の市場に並ぶことはなく、すべてサンティアゴに輸送されていた。
 その方が金になるのだろう。
 が、いつも漁船を追ってはむなしく引き返してくる日本人たちを哀れに思ったのか、ミヒノアキャンプのオーナーがマグロを手に入れてきた。
 そのときあのおっちゃんは確かにヒーローだった。
 軽快にマグロをさばくオーナー。取り囲みよだれを流す日本人15人。それを異様なものでも見るような目で見る欧米人。確かにマグロ解体を羨望の眼差しで眺める日本人15人は異常にうつるだろう。
 
 皆で身を分け合い、大トロを分け合う。
 そして醤油をぶちかけて口に入れたときの感動。忘れないよ。
 最高に美味かった。なんだあれは。
 欧米のかたがたにも是非これを知ってほしいと思い、

 「ヘイ!サシミひとつどうだい!エクセレントだよ!」
 「ノー!ノー!ノー!アンビリーバブルだ!!」
 
 という答えが返ってきた。
 もったいない。食文化の違いを強烈に感じた。スシブームなんじゃねえの?

 そんなこんなで1週間は瞬く間に過ぎた。のんびりしていたわりにはやたら時間が過ぎるのが早かった。
 一つ後悔したのは、もうちょっと小ましな釣り道具を持ってくるべきだった。せめて子供釣具セットくらいあれば、毎日おかずに困ることもなかったであろう。
 イースター行く人はぜひ持ってってください。 


写真1  教会の様子。
写真2  マグロとオーナーと取り囲むジャパニーズ。
写真3  黄昏のキャンプ場。