宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

モンテビデオ。小心者南米上陸へ。



 次どこへ行くの?
 
 うん、モンテビデオ

 と答えて、へえーー。という阿吽の呼吸でへーを言ってくれる人は皆無であった。
 ワンワールド世界一周券を使っている多くの旅行者の中でも、スペインのマドリードからウルグアイの首都モンテビデオというルートを取る人は稀なようである。

 なぜ自分が南米上陸の都市としてウルグアイモンテビデオを選んだのかというと、出発前に某ガイドブックにて、「南米で最も治安のよろしい所」という小心者には魅惑的な響きのフレーズを見てしまったからに過ぎない。
 みんながなぜこの街を選ばないのかというと、ズバリ、「何もないから」である。
 どのガイドブックを見ても、あの辞書の様なロンリープラネットを目を皿のようにして眺めてみても、「ウルグアイ」ほどスモールインフォメーションなところも無いのではないかと思う。
 
 ウルグアイへ向かうイベリア航空機の機内は、陽気な雰囲気に包まれていた。
 ホリが濃く毛むくじゃらの兄ちゃんたちは酒をあおりまくって、席を立ちまくっている。
 恰幅の良いおばはんらも大声で笑い声を上げている。
 飛行機が滑走路を滑り、ゆっくりと静止に向かう頃には、機内から大きな拍手が起こった。
 今時飛行機内で拍手するものなのだろうか。
 
 驚くほど小さな空港から外へ出ると、激しい太陽光線が突き刺さってきた。
 南米風、というよりも南国の島的な、ヤシの実のような木の葉の緑が濃い。
 空の色はがっつりとした青だった。
 
 市内へ向かうオンボロバスからは、なにやらトロピカルな音楽、というか南米的な音楽のラジオが流れていた。横の席に座っている16歳くらいの白人の男の子はキャップを深々とかぶって、携帯電話から流れてきている音楽に聞き入っていた。
 子供らが道端で空気の抜けたベコベコのボールを蹴っている。
 そんな風景を流し見ているうちに、南米来たなあという実感がわいてきていた。

 某ガイドブックでは、モンテビデオブエノスアイレスと並び、南米のパリであるというキャッチコピーが付けられていた。
 なるほど確かにヨーロッパの様な街並みに見える。しかしどれも古ぼけていて、すすがまぶされたように少し黒ずんでいる。
 日曜日でもないのに、街にはあまり人が出歩いておらず、醸し出す閑散とした雰囲気は哀愁が漂っていた。
 街に見どころも特に無い。
 しかし物価はなかなかに高い。
 そりゃあ旅行者も好き好んで来まい。

 チェックインしたユースホステルから海岸沿いまでは歩いて10分ほどだった。
 特に街でやる事も無く、暇をもてあましていたので、海を見ながら夕日でも眺めてみてやろうと思い立った。時計は18時半を表示している。
 日差しは相変わらず激しい。
 美しい海を眺め、、、といいたい所だったが、海水はどの海よりも茶色だった。恐らく大雨にでも降られたのだろう。
 しばらくビーチで海遊びをする人らを眺めていたが、さっきから東洋人が多い。
 街中にもやったら東洋人が多い。
 みな日本人や韓国人ではなく、中国人だった。
 それにしてもあっちこっちにいる。どうやら中国移民がかなりの数いるようだった。
 
 しかし日がなかなか落ちない。
 やっと夕日、という時刻には、もう21時だった。
 水平線に落ちてゆく夕日を見終わった頃には21時30分になっていた。
 夕日を見る、という行為のために3時間も海岸で座り込んでいた事になる。
 ヒマな奴だなあ、、、。と自分で思った。
 日本で働いていた頃にはなかなかできなかった、いや、やろうと思わなかった時間の使い方である。
 これはこれで、贅沢な気分に浸れるものである。