宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

グラナダ。アラブっぽい街を歩く。




スペインの港町、アルヘンシラスからすぐさま列車に乗り込んだ。
ともにモロッコを海で越えてきた日本人のR君は船酔と風邪でグロッキーだった。
彼は二年間世界一周旅行をしていて、欧州の宿泊を全てホームステイで済ませたという強者で、30万円くらいは浮かせたそうだ。
なんでもカウチサーフィングというサイトに登録すると、ホームステイを受け入れているお宅を検索でき、メールのやり取りをして宿泊の予定を入れるのだそうだ。
もちろん宿泊代はただで、夕食をともにすることも多いらしく、飯代まで浮くのだという。
もひとつ英語に自信がないが、アメリカ大陸ではいっちょチャレンジしてみようかと思うのである。

彼はバルセロナに向かうため、途中の駅で下車した。
俺の目的地はグラナダだった。
アルハンブラ宮殿はじめ、スペインの中でもアラブ色の最も濃いところである。

列車は8時間ほどかけて夜九時ごろに到着した。
小心者なだけに、夜のスペインに必要以上に警戒する。
白い息がでる。乾燥して冷たい空気が肌をなでる。
照明に浮かぶ巨大なカテドラルの近くに宿を取った。
19ユーロのシングルルームで、ホットシャワーはガンガンに出るし、ベッドはふっかふかで、勉強机みたいのがあり、インターネットもフリーだった。
この旅行で最もコストパフォーマンスが高かった。

次の日は突き抜けるような晴天だった。
気分をよくしてアルハンブラ宮殿へ歩いて向かった。
チケット売り場には少し行列ができていたが、15分ほどでチケットを買うことができた。

アルハンブラ宮殿は、13、4世紀グラナダイスラムナスル朝グラナダ王国として繁栄していたころに、当時のイスラム建築技術を結集して造られたものらしい。
その王宮はの壁は茶色や肌色の原色で、ケバケバしさを排除してあり、柱の細部にまで様々な幾何学文様がほどこしてある。

そのシンプルな美しさがいい。
池に映し出された宮殿と、抜けるような晴天の組み合わせに、思わず[おおお!!]と一人うなってしまった。
宮殿を取り囲む城壁からは、今なおイスラム色の強いアルバイシンの街並みと、遠くスペインの平野が見渡せた。背後の山脈には雪もかかっている。

最高の見晴らしを堪能したあと、そのアルバイシン地区を歩いた。
白い壁と茶色の屋根で統一された古ぼけた街並。
丘にへばりつくように家々が広がっていて、坂道を上がってゆくと向かいにアルハンブラ宮殿が厳かに見下ろしている。なんだかこの宮殿のあんまり偉そうでないところが良い。

と、歩いているとどこからともなくマリファナの臭い。そしてギターを掻き鳴らし唄う声。壁にはド派手なペインティングが続いている。
前方に見えるのはこんなに寒いのにゆるゆるのタンクトップにグルングルンの頭をしたヒッピーの皆さん方。

ああ、そいういえばこれまでに何人か、スペイン人ヒッピーと会ったことがある。
そのときスペインのオススメを聞いて必ず返ってきた答えが、
[グラナダは必ず行け!!]
だった。
なるほどね。お仲間だらけですよ。

アルハンブラ宮殿を一望できる公園でのんびりしていると、前方でギターを弾いていたヒッピーがおもむろに木に登り始めた。周りの男女はなにがおかしいんだか爆笑している。
ああ、キマってるのね。
しかしヒッピーにはさほど興味はない。

アルバイシンに軒を連ねる土産物屋をひやかすと、モロッコで売っていたような革靴のバブーシュや、色鮮やかな陶器の数々、布やだらんと肩にかけるおしゃれバッグなどが売られている。
値段を見ると、、、、おやまあモロッコより安い物も多いんでやんの。
まあ、モロッコ人はかなりぼったくってくるのだけれど、それを差し引いても安かった。
ロッコで7、800円だった布が300円くらいで売られていたり。
そしてセンスも、なんだかこちらの方が良いように感じるぞ。

サンドイッチをかじっていると、店の親父が近づいてきた兄ちゃんに
[サラマレコム!!]
ってアラビア語じゃねえか。

グラナダはいろいろごちゃごちゃ混ざっている。
でもここは立派なヨーロッパ、スペインなのである。