宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

カッパドキア。駆け足で世界遺産を巡る。




 シリアを越えてからタイトな日々が続いている。

 シリア北部のアレッポを午後に出て、タクシーで1時間北上してトルコに入国である。
 入国はじつにあっさりとしていて、トルコ側にあるデューティーフリーの店構えがこれまでのどの国のものよりも立派だ。
 アレッポからトルコの町、アンタクヤへは日本円にして1000円くらいの約束だった。
 が、国境を越え始めた頃から運転手のおっさんがごね始め、アンタクヤまでさらに10ドルよこせと言う。
 いくらユルユル旅行者といってもそれは無理。
 タクシーが揺れるほどでかい声でどやしたら渋々車を動かした。
 
 ずいぶんと緑が増えた。北に上ってきたんだなあと実感する。
 タクシーのおっさんは先ほどのことなどなかったかのようにご機嫌にタバコを吸っていて、窓の外に見える長い柵を指して「あれ、国境だぜ。」と自慢げに語る。

 アンタクヤには午後3時ごろ着いた。
 すぐにバス会社に駆け込み、カッパッドキア行きのチケットを探したが、この時間ではもうないという。
 結局アダナと言う街まで行くことになった。
 午後四時発。郊外にあるターミナルから出発である。
 バスはこれまでのどの国よりも大きく、綺麗で、コーヒーなどのサービスがついている。
 アダナには午後八時ごろに到着したのだが、そこからカッパドキア行きはやはりなく、近くのカイセリという街まで行かなければならない。
 午後9時にカイセリを出発した。
 乗り継ぎ乗り継ぎである。

 カイセリに着いたのは早朝2時半。
 バスを降りたとたん、冬のような空気が体をまとう。
 周りの人を見るとコートを羽織っている。
 俺の格好は半そで、ジーパンにスリッパである。
 たったの半日で全く気候が変わってしまった。
 
 カッパドキア行きのバスは朝の8時半だという。
 しかしながらトルコのバスターミナルは、ちょっとした空港よりも施設がそろっている。
 カフェ、レストラン、ATM、コンビニ、散髪屋、ネットカフェ。
 少しずつ先進国の「ニオイ」が漂ってきている。
 朝までくつろぎつつ10時にはカッパドキアのギョレメという街に着いた。

 カッパドキアでものんびりはしていなかった。
 世界有数の景勝地でもあり世界遺産でもあるカッパドキア
 山間部にある奇岩の風景は異世界を思わせる。
 歴史としても古く、前19世紀から存在を認められ、キリスト教の洞窟僧院や、なぞの多い地下都市なども存在する。
 着いたその足で歩き回り、その景勝地を目に収めた。
 1泊した次の日には1日ツアーに参加し、地下都市を巡り、渓谷をハイキングし、景色のすばらしいビューポイントを眺めた。
 ここにはもっとゆっくりするべきであった。
 ゆっくりとできる土地なのである。
 夕日や朝日もすばらしいものが拝めるし、ひんやりした朝夜の空気は頭をすっきりさせてくれる。
 時間がないことを恨んだ。
 
 「世界一周を一年でやる。」
 というのは、自分には十分すぎると思っていた。
 当初は8ヶ月で十分だろうとも思っていた。
 今は、例え5年あっても足りないと思う。
 しかしながら人生というものも有限であって、お金も有限だ。
 どこでどう折り合いをつけてゆくのか。

 1泊2日、再び夜行でイスタンブールへむけて出発した。
 中国に上陸してから7ヶ月半。ようやくアジアとヨーロッパの分岐点、イスタンブールが見えてきた。
 航空券の期限は、もう半分を切っている。