エルサレム。主に２万円お布施。

　自分にとって、エルサレム巡りほど待ち焦がれたものはなかった。
　ヘブライ大学の留学生の男性からもらった聖書を手に、足が棒になるほど毎日歩きまくった。
　キリストゆかりの地などで聖書をひろげ、そのくだりを読む。
　ああ、この階段とか登ったんやね。
　パレスチナ自治区に当たるベツレヘムにも行き、生誕教会で想像にふける。
　あの有名な最後の晩餐。
　その部屋の近くの道で腰掛け、また聖書を読んじゃったりする。
　うーーむ。デリシャス。

　ルカ伝のそのユダにサタンが降り、キリストを売り渡す決心をする。最後の晩餐でキリストは１２人の弟子の前でそれを言い当てる。
　さあ、観に行くぞ、と腰を上げた瞬間、サタンが舞い降りた。

　入り口のおっさんが、帽子を売りつけようとしていた。
　買うつもりはまったくなかったが、ちっと財布をのぞいてみようと思って取り出した瞬間、ボトリと中身が抜け落ちた。
　先ほどＵＳドルを３００ドルおろしたところだった。
　まるでサザエさんのオープニングのようなタイミングで突風が吹き荒れ、持金含めて５万円近くが風に舞った。
　唖然とする俺とおっさん。
　一拍の間をおいて、とりあえず「ぎゃーー」と叫び、あわてて札を拾う。
　が、どこを探しても２万円分見つからない。・
　おっさんがパクったかとも思ったが、目の前でのことだったので、それもない。
　すると一部始終を見ていたおっさんが空を指差して言った。
「上に飛んでったよ。」
　見上げるとマリアの教会が。その向こうは谷のようになっている。もはや見つかるまい。
　バックパッカーが２万円おふせって、、、。
　なかなかないんやないのん？
　ドネーションの効果を切実に祈る。