宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

アーグラー、マドゥーラー。インドらしさ。




インドといえば、タージマハール。
 三ヶ月インドにいて、まだ見ていないことに気づく。
 
 タージのあるアーグラーは、デリーの南東200キロに位置している。
 時間が無い為、ツアーバスによるアーグラーツアーへの参加となった。
 バスはエアコンつき。客のほとんどはインド人だ。
 朝6時に宿でピックアップされ、朝飯休憩を挟み、バスは一路アーグラーへ。
 昼過ぎに、最初の訪問地、アーグラー城に着く。
 16世紀から17世紀に覇を唱えたムガル帝国の巨大なお城。
 城壁が赤い。
 城巡りに少々疲れの見え始めた心とは裏腹に、インド人20ルピーの入場料のところ、外人料金250ルピーをかすめとられる。
 アーグラー城は、まあ、ふーーん。という感じ。広さなら大阪城やな。
 城内からは、ヤムナー河をはさんでぼんやりとタージマハールが見える。
 おお。やっぱりかっこいいやんけ。

 隣の席にいた大学生のサーイ君とバスへ戻る。
 きっちりに戻ろうとする俺に、
「大丈夫。30分以上は遅れるから。」
 とサーイ。
 彼の言ったとおり、バスには一番乗り、40分遅れで出発した。

 バスはすぐにタージへ向かうと思いきや、やはりツアーバス恒例の「政府公認免税みやげ物屋」直行便へ早代わり。
 そこそこ大きな長方形の建物にバスは突っ込む。
 内部ではリアル、ジャぱネットの世界が展開される。
 そんなドクソ重い、大理石のタージマハル模型、どないすんねん。
 と思いきや、ご購入インド人続出。彼らは金がある。

 その後サリーやチャッパル(サンダル)の攻勢をかわし、お次は昼食である。
 インド人の昼食はなかなかに日本のサラリーマンと近い。
 つまり、焦っているかのように、食う。
 誰もとらへんがな。
 そんな中でも俺とサーイがしゃべっていると、興味があるのか横から茶々を入れてくる。
 必ず聞くのが、
「お前日本人か。」
「日本のドコだ。」
 奈良。というとたいがいそこで会話がお開きとなるので、
「大阪。」
「おお!東京の次だな。いい所だな。アリガトウ!コンニチワア!!」
 みたいなのが繰り返される。
 インド人のこういうしつこいくらい人懐っこいところ、俺は好きだ。
 
 そしていよいよタージマハルである。
 バスの中で料金徴収。インド人40ルピーくらい、外人750ルピー。である。公定料金。
 国ごと20倍の料金を外人にふっかける。公然と。やくざな奴らである。
 荷物検査を終え、ゲートをくぐると、あの白い巨大な建物が見えてくる。
 その全貌が広がったとき、うなった。
 やっぱ、1人の女性のためにこんなお墓を造っちまうなんて、人間の酔狂もここまでくれば感動的だ。ほんでまたデカイ。
 建物のことは詳しくないが、左右対称に造ってるらしいっすね。今まで見たことの無いシロモノであるのは間違いない。
 これ王宮じゃなくてお墓なんやもんね。
 タージは観光客で溢れ返っていて、俺もみんなも写真撮影にいとまが無い。
 人様の墓でポーズ決めてバシャバシャ写真取り捲ったりすんのも、考えてみりゃあ不謹慎極まりないね。

 タージを見て満足したが、このツアーそれで終わりじゃあない。
 帰りに、マドゥーラという、インドで最も人気の神様、クリシュナの生誕地へ寄るのだ。
 バスの中では、はとバス親父が声をあげる。
 応えるインド人。あがるテンション。
 マトゥーラに着いたのは夜の9時。
 夜のクリシュナ寺院は遊園地かテーマパークのようにきらびやかで、内部にはクリシュナの像が数多く祭られている。 
 友達になったサーイもヒンドゥーだ。
 階段一つ一つにも祈りをささげ、床にうつぶせになり、額、右ほほ、左ほほと地に付ける。
 そしてその周りを祈りながら時計回りに回る。
 ヒンドゥーの寺院には他教徒が入れないところも多く足を踏み入れたのはこれが初めてだ。
 そこにいる人々の姿をみて感動した。
 小さな子供から大人からばあさんまで、ピッカピカのクリシュナに向かって、真摯な祈りを捧げ続けている。

 信仰というのがいまだに感覚をつかめないでいる。
 日本で唯一、自分が信仰というか、祈りを捧げる場はご先祖の墓か、法事のときくらいである。
 インドに3ヵ月いたが、この社会の価値基準、人々の価値観について、明確な答えはまったく分からなかった。
 街には日本の協力で造られた立派な地下鉄が走り、マクドナルドのスクリーンビジョンには未来を幸せそうに営む家族がうつり、テレビのCMでは俳優がカッコ良く携帯をいじる。
 インドの次へ向かおうというパワーは圧倒的だ。
 近年の富裕層増加率は、インドが世界一だ。
 プロクリケットリーグの選手の年俸は大リーグなみだ。
 今まさに大量のお金や物資の流入とともに、多くの価値観の流入も始まっている。
 今後の変化に興味を抱きつつ、インドを後にする。