宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

ラダック。アルチの壁画。




 結局、レーを中心としたラダック地方の滞在は12日間ほどとなった。
 ラマユルをはじめ、レー周辺の小さな村やゴンパ巡りを楽しんだ。

 ラマユルからの帰り、ローカルバスを途中で降りて、アルチという小さな村のゴンパへ寄った。
 11世紀に創建されたというそのゴンパの、壁画の見事さ。忘れられない。
 7、8メートル四方の三重の塔のような堂内の中心にはストゥーパがあり、入口以外の三面には、4メートルくらいの仏像がある。
 そして壁には手のひらほどの小さな仏様の絵がびっしりと描かれている。
 その一つ一つに表情がある。
 輪廻転生を表しているものか、地獄の絵がある。
 立像のふとももの部分にも細かく仏の世界が展開されている。
 少しくすんだ色合いと、わずかに入る光の調合が、より歴史を感じさせる。
 これはすごい。
 美しさに、瞑想を始めちまう欧米人、多数。
 自分も、なんと言うか、その神聖さに、「うわあー。」とうめいた。
 写真を撮ってはいけなかったのが残念だ。

 帰りのバスを待っていると、隣に若い日本人男性が。
 話しかけてみると、19歳の美大志望の浪人生だった。
 毎日毎日、予備校での絵の練習ばかりで、技術以外の部分の成長を感じれなかったのだそうだ。
 刺激を求め、好きな仏教画を見るために、わざわざこんなラダックの片田舎に足を運んだ。

 よほど刺激的だったのだろう。
 バスの中ではその壁画の美しさとか、絵のこととか、仏画の良さを2人でしゃべりまくった。
 彼はこれが初めての一人旅らしく、色々とトラブルも多かったようだ。
 それでもラダックの人たちの温かさや助け、家の食事に呼んでもらったことなどうれしそうに話してくれた。
 しかしながら、体調不良なうえ、バスが来なくて困っていた時、冷たかったのは日本人だったという。
 それはツアーで来ている、団塊世代の旅行者団体だったらしい。
 ほとほと困り果てて、やむをえずバスのあるところまで乗せていってくれないだろうかと頼んだところ、
「ウチの会社ではそんなのやってないから。」
 で、終わりらしい。
 ねえ。
 他の日本人旅行者も、関わり合いになりたくないらしく、目すら合わそうとしなかったらしい。
 ねえ。どう思うよ?
 その話を聞いておもわず、
「そいつら、はよ死ねばええんじゃ!」といってしまった。
 自分のは言い過ぎであろうが、あまりに冷たく、柔軟性の無い大人たち。
 あまりに会社的。
 なにを日本の社会のしょーもない部分を、こんな壮大な大地の上で吐き出しおるんだろうか。
 つくづく、アホでもええから、そんなショーもない中年には、なりたくない。そう思う。

 それにしても、彼の刺激を与えられた目はかっこよかった。
 油絵なんか、もう嫌だと思っていたらしいが、アルチの壁画を見たら、ふと油絵が描きたくなったのだそうだ。
 やっぱり本物の絵は何か持ってるんやろうね。
 将来、子供たちに絵を教えたい。
 自然の中で絵を教えるのは、子供にとって素晴らしい経験になると思うんです。
 その言葉。
 彼の中ではそれは夢ではなく、目標だろう。
 口から自然に滑り出てくるそれを、こいつは達成するやろうな。良い絵を描いてくれよ。
 えらそうにそんなことを思った。


写真1枚目  アルチゴンパにある仏像。
写真2枚目  ストック村にある王宮。この村のんびりしてて良かったあ!
写真3枚目  ラダック最大のへミス村のゴンパ。