宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

カトマンドゥ。インドビザ取得へ。ここの犬、かわいかった。



 サッカーのヨーロッパ選手権のあおりをもろに受けて、深夜4時ごろまで騒音で眠れない。
 バーでは町中に響くくらい、音量を上げている。
 オランダに勝ったロシア。
 よほどうれしかったのか。ロシア人が騒ぎすぎ。
 
 そんな中、プリーから旅を共にしているツレの女性がインドビザを取得。
 もともとポカラで取るつもりが、100ドルの費用を請求され、やむなく埃と喧騒渦まくカトマンへ移動したのだ。
 プリーにいたある日本人のおじさまの教えに従い、朝5時に起きる。
 8時半に整理券が配られ、その順番にビザ申請を受け付けているのである。
 雨の中6時にインド大使館へ着いた。
 誰もおらん。
 ハイシーズンには6時からでもインドの地を踏むためにビザを求め、人々でごったがえすという。
 8時を過ぎる頃から、欧米人を始めとして列ができ始めた。日本人の姿も見える。
 これから受験でも始まるかのように、みな一様にすこし緊張気味の面持ちである。
 ロシア人カップルの女性は、男性を無意味にしばき、イギリス人の女性は「OH!!いけない!パスポートを忘れてしまったわ!」と、あの独特の、両手うらっかえすゼスチャーを見せる。長期旅行者風の、よろよろのタンクトップにヒゲの日本人男性はおもむろにへんちくりんな笛を吹き始めやがった。
 「びりょーんびりょーん」
 彼はその緊張感を少しでもほぐそうと思ったのか。彼の意味のない演奏は続く。なぜここで練習を。
 むなしく音が響く中、小さな窓口に人々が群れる。
 なんだってこんなに人が来るのにこんなちっぽけな小窓なのか。
 役人のやることは民間に理解しづらい。
 と、笛の音を切り裂いて「サクッ!!」と小窓が開いた。
 ちょび髭メガネの小太りのおっさんだ。目つきは鋭い。まさかこいつのご機嫌しだいでビザ取得のの有無が決まるのか。
 「番号札持ってるやつから窓口へこい。」
 当然われわれが一番である。試験管のような鋭い質問をかわし、レシートを受け取る。
 隣の窓口で300ルピーのお支払い。ここでもお釣りがでない。インドでは1000ルピー、いや、500ルピーですらババ扱いである。露骨にやな顔をされる。そんなら100ルピー札ばっかりで、と、両替のときにうっかり言ってしまうと、一万円換えて札が40枚や50枚になり、パッツンパッツンになって財布の口はガバガバである。
 料金を払った時点で、一回目は終了である。次は5日後に来いとのこと。なんとなくホッとするが緊張感は抜けない。先ほどいた日本人男性のツレは6ヶ月ビザを申請したものの、3ヶ月しか認められなかった模様。笛の音が気に入らなかったか。やはりあのヒゲはやる。
 5日後に再び朝一で大使館へおもむき、2回めの申請を済ます。今度は写真のついた用紙とかを提出する。記入が甘いところは突っ返される。インドよ。普段かなり適当やんけ。流してくれや。
 残り600ルピーを支払い、午前中は終了。レシートをもって16時半に再び出向く。テメーがビザを取るわけでもないのに、よくわからなそうな日本人男性に「こうこうすればオッケーっすよ!」みたく先輩風を吹きさらす俺。

 さすがに3回めである。守衛たちとにこやかに挨拶を交わしたり、何度か顔をあわせているビザ待ちのメンバーとも挨拶を交わし、「ちょっと旅慣れてます風」になった気分である。ツレの子もドキドキしつつも顔には若干の余裕が。
 16時半に門が開き、再びあのヒゲの元へ並ぶ。
 今度は静寂を切り裂いてサクッと窓口が開いた。
「わしこれから呼ぶ人、ビザ出来てるから。ちゃんと名前きいとってよ。」
 30人ほどの人々に向かってしゃべった後、一人一人名前を読み上げ始めた。ああ原始的。
 しかしちょびヒゲのおっさんの目にはあのときなかった優しさが!まるで「勉強だけがすべてじゃないのよ」という瞳で成績表を渡す小学校の先生のようである。
 名前を呼ばれてゆく面々は、一様に足取りが軽くなった様子。ロシア人の姉ちゃんも機嫌がよさげだし、スキップかましている人もいた。ビザを受け取った瞬間、ツレの表情もぱあーーっと一気に明るくなった。肩の荷が降りたご様子。いつになくご機嫌である。

 感じとしては運転免許証取得の流れを思ってもらいたい。緊張する人々、機械的対応の役人、顔なじみになる人々、先輩気取りのやつ、取得の際の人情味。
 その場の雰囲気は、自分が免許を取り消しになり、再び取得するまでの流れを凝縮したようでもあった。
「番号呼ばれた方から箱に免許、入れてってくださーい。失効期間は1年でーす。」と、祈るような気持ちで待つ免許取り消し者たちを尻目に、のんきな声で棒読みの若い役人。そして吸い込まれてゆく俺の免許証との別れ。そして、飛び込み試験や教習を経て、再会したときの感動。
 そんな無関係なことを思い出す。裁判所に勤める親友から言わせれば「お前が悪い。」の一言で終了だったが。

写真1  インド大使館に住み着くルビ。
写真2  そのへんのガキたち。

 以上、暇にかまけて長々と。
 
 現在はすでにインドのダージリン
 そう、紅茶とトイトレインで有名な。あそこですわ。