ルンビニ。風の変化。
バラナシ駅近くにあるローカルバス乗り場から、ネパール国境の町スノウリまでのバスがある。
夕方6時発のそのバスに間に合うように宿を出た。
バスは相変わらずとんでもなく汚い。
ツーリストバスではないので、バスの中の顔ぶれはインド人のほかに、東洋系の顔をしたネパール人たちも多く混じっている。
エアコンなどもちろん付いておらず、車内は蒸し暑い。
窓を全開にしていても、ぬるい風と鼻がむずがゆくなりそうなほどの砂ぼこりが入るだけだ。
寝ようと思っても首を据えるところも無く、シートは硬く、すぐに尻が痛くなる。全く眠ることができない。
今回もルートが同じ日本人旅行者のAさんがいて、話をすることが出来たのがありがたい時間つぶしとなった。
18時出発のバスは、国境の町に朝5時にたどり着いた。日本の梅雨のようなシトシトとした雨が降っている。
バスが着くなり、自転車に乗ったリキシャーマン達が寄ってきた。彼らのうちの一人のおっさんに仕事を任せ、イミグレまで連れてってもらう。
小さな小屋に着いたリキシャーマンは、その中で蚊帳をかけて寝ていたおっさんをたたき起こし、奥から出国カードとスタンプを持ってきて、机に並べる。
プリントに記入して、寝起きのおっさんにハンコをもらった。
恐ろしく簡単な出国。
ネパール側のイミグレ前では、たくさんのトラックが待機している。
30ドルでその場でビザを作り、あっさり入国である。
朝一番のせいか、他に入国する外国人もおらず、実にスピーディーに事は終わった。
ネパールのスノウリから、ブッタが生まれた地、ルンビニまでは24キロほど離れている。
今日はその街を見て、次の日にはまた違う街へ移る。
タクシーでの移動中、流れる風景を見ても、まだインドとの違いが現れない。
ただ、人口密度がぐっと減った。車も少なく、埃がまだ少ない。
直前までバラナシにいたせいか、それだけで、空気がかなり綺麗になったように感じる。
ルンビニもまた、世界遺産に登録されている町だ。
ブッタ生誕の地として、紀元前には仏教を推進した帝国のアショーカ王も詣でたという土地なのだ。現在ではネパール、チベット、韓国、タイ、ベトナム、中国、日本や、フランス、ドイツの寺まで建立されているのだ。
寺のテーマパークみたいである。
宿をとり、朝10時ころに自転車を借りて大きな園内をまわった。
残念ながら今はオフシーズンで、工事中の寺が多く、園内の散歩道も土砂がむき出しになっていたりと、少々趣を欠いた部分はあったが、世界各国、スタイルの違う寺院の屋根が並んでいる姿はおもしろい。
道端にいるネパール人たちは気さくに「ナマステー!」と挨拶を交わしてくれる。
インドではどっからでも「ジャパーニー!!」と叫んできて、それもまあ面白いんだけれども、ネパール人達のように少し控えめに声をかけてくる様子には、きっと多くの人が親しみを覚えると思う。
観るところをざっとみて、夕方には宿へ戻り、ビールを飲んで屋上へあがった。
夕日が緑色の林の中に消えてゆく。
風は少しずつ冷えてきて、肌に心地よい。
ああ、風がインドのものとは違うなあ。埃のにおいよりも、緑のにおいのほうが強い。
気がつくと星が瞬き始めていた。
地平線のほうまで星が張り付いている。
流れ星が落ちる。
中には点滅している星もある。
おかしいなと思って隣の畑に立っている木を見ると、まるでクリスマスツリーのように点滅している。
ホタルの光の点滅だった。
それだけで、もうなんかネパールが好きになりそうだった。