宿屋の店主、日々のつぶやき。

旅好きが高じて宿を開業、自由な時間を求めて今日ももがいております。

アウランガバード。オリエンタルな町。




 
 ムンバイからの深夜列車に乗り込むとすぐ眠ってしまった。列車がデカン高原の町、アウランガバードに着くのは早朝4時だ。3時ごろ目を覚ますと、ベッドから通路まで、人でびっしりであった。ファンつきのSLというクラスに乗ったのだが、これで178ルピー。エアコン席だと800ルピーを超える。エアコンは高級品。
 
 すこし肌寒いくらいの気温のアウランガーバードに着いたのは4時半。駅では雑魚寝している人々であふれていた。
 オートリクシャーのおっさんに連れられるがまま、町中心部のホテルへ直行。カバンも床にそのままに眠り込んだ。
 強烈な朝日で目を覚まし、ベランダから外を眺めると、何だか中東の世界に迷い込んできたかのような錯覚をうけた。石造りの建物や行き交う小さなオートリクシャー。全体的にほこりっぽい色の町。
 突然部屋の静寂をうちやぶるノックの音。ドアを開けるとヒゲモジャの40歳くらいのおっちゃんが。
「ハイ。」
「こんちは。ツアーどうよ。ガイドするよー。あんた日本人?これ見てよ!」

 ボーっとする俺にたたみかけて来るおっさん!ボロッボロのノートにかすれそうな日本語で「このガイドさんはとってもいい人です。」みたいなページをしきりに見せる。
 怪しい。
 すぐ握手。
 怪しい。

 でも、目がウソついてなさそうだったので、一日市内観光250ルピーで手を打った。
 ここアウランガバードは、世界遺産であるエローラ、アジャンター石窟遺跡群の拠点となっているようなところで、当然それを目的にした私であり、それを標的にしたインド人とのやり取りが行われるわけである。
 エローラとアジャンターは離れている為、市内観光もあわせて3日プランを提案してきおった。じゃあとりあえず市内を頼むよ。とあいなった。結果的にいうと、このおっちゃんはいい仕事してくれた。

 オートリキシャーに乗って先ずはアウランガーバード石窟群へ。6世紀から7世紀に造られたという石窟の仏教寺院。すさまじい熱さの太陽光を逃れるように洞窟遺跡をまわった。洞窟の仏像は顔が剥がれ落ちているものがおおく、柱ひとつにも重厚な歴史を感じる。観光客がほかに全くおらず、しばらく洞窟内で座り、全盛期の頃の風景を想像した。

 次はタージマハールに模した、ビービーカマクバラーへ。城壁の美しい建築と庭園。ここも多くがインド人で、家族ずれがおおい。みな外国人の俺を見ると、やさしく笑顔で返してくれる。子供がよって来て写真を撮ってくれと、きれいに整列する。子供らは金をねだるでもなく笑って立ち去っていった。

 このあとヒムロ-という織物生産所や、博物館、灌漑施設などをまわってくれた。最後はオススメのレストランでおいしいチキンのビルヤーニー(カレーピラフみたいなん)を食いながらいくつか聞いてみた。
「インドではあんまり肌見せてはいけないって聞いてたけど、ムンバイでも、ここでも随分様子が違うね。」
「そう。ムンバイは近代的な教育を受けて、考え方も先進的だ。この町は5つくらいの宗教が混在している。ちなみにワタシはイスラム教。」
 そう、宗教が混在しているというのは、日本人にとってはふしぎな感覚ではないだろうか。それぞれみな、自分の宗教的な規律を守りながら生きている。このおとっちゃんも10歳になる娘がいるそうで、頭が良くって、成績抜群なんだそうだ。嬉しそうに話してくれた。
 そのままホテルまで送ってくれた。移動中もなにかと説明してくれたりと、なんだ、いい人じゃないか。
                       猛烈な暑さのネットカフェより。